古楽器スターターのページ

その5:姿勢と楽器の構え方 (制作中)

どんな楽器を弾くときでも姿勢は大切ですね。姿勢が適切でないと上達が阻まれたり思うように弾けないだけでなく、
痛みが出たり、深刻な場合には腱鞘炎や腰痛などを引き起こしてしまいます。

実際、講習会などで教える度に感じることですが、姿勢に気をつけている生徒さんは少ないですね。
ことに足を組んでいたり足台を使っている人の姿勢は良くない場合が多いように感じます。

それは先生の責任が大きいのでしょうが、いずれにしても悪い姿勢でも一旦姿勢が固定されてしまうと、
より適切な姿勢を快適と感じることが難しくなり、矯正は困難です。

ですので、ますは良い姿勢で始めること、また姿勢を改善する場合、ある程度時間をかけて根気よく続けることが大切です。

適切でない姿勢で長年弾き続けた結果、肩の痛みや腱鞘炎で楽器を弾けなくなってしまった方に何人か会ったことがあります。
せっかく古楽器という素晴らしい世界に出会ったのですから、少しでも長く演奏を楽しみたいものです・・・

また、姿勢を変えた途端に音が良くなったり、これまで弾けなかったフレーズが弾けるようになった例も経験したことが何度もあります。

ここでは図版を用いつつ歴史的な変遷を概観して、私の推奨する姿勢、楽器の構え方について書いていきます。


中世リュート

4コースもしくは5コースを持ちピックで弾かれる中世リュートは立奏が圧倒的に多いですね。
左手は手のひらでネックを握るように持ち、右手はリュートの底部を腕で押さえています。

実際、小型で軽い(ものが多かったと思われる)中世リュートはこの方法で快適に楽器を構えることが出来ます。
また、多くの場合はプレクトラムで単旋律を弾いていたので、このような保持でも問題は生じなかったのでしょう。


下の図像では5コースの楽器を指で弾いていますが、机を使って楽器を安定させています。




ルネサンスリュート(前期)

15世紀の終わりから16世紀中頃にかけては次の2つの方法が主に見られます。

*低い椅子を使う。


この低い椅子を使う方法は無理なく親指内側奏法になるので、お勧めです。
ルネサンスリュート専門の方は是非試してみてください。

*机や台を使う

この机を使った保持の図像は非常に多いですね。テーブルがリュートに共鳴して響きが増えるメリットもあります。


ルネサンスリュート(後期)

*机を使う。


こちらでも机を使っている図像は圧倒的に多いですね。奏法としては親指内側と外側両方見られます。
机を使うことはトーマス・ロビンソンなどのリュート教本(1604年)でも推奨されています。


バロックリュート

バロックリュートは親指外側奏法でブリッジ近くで弾弦されるようになります。

*足を組む

足を組んでいる図像はいくつか見られますが、教本で推奨しているものはありません。
また、足を組んでいる場合でも、上体はまっすぐで背中は丸まっていないことに注意しましょう。
バーウェルリュート教本では「顔を上げてまっすぐに座り、(背中を丸めて)前屈みにならない」ことをしつこいほどに強調しています。

*机を使う

バロックリュートでも机を使っている図像が圧倒的に多く、またバロンやメイスなどの教則本でも推奨されています。

*左腕を机に置く

これは特にオランダの図像に多く見られます。トーマス・メイスは「リュートを机に持たせかけて左腕を机に載せる」ことを勧めています。

*保持具を使っている?

上の様に何の支えもなく、言ってみればリュートが宙に浮いているような図像もあります。
残されている楽器や絵画には、リュートの背面にガットやリボンが張られている例が有り、
これを上衣のボタンなどに引っかけて楽器を支えたのだと考えられます。


たとえば↓のようにですね。

リュートの裏に張ったストラップを上着のボタンに引っかけています。
これはなかなか快適な保持の方法です。

この頃にはストラップは多くの図像に見られます。
実際にストラップを使っている奏者の図像はあまりありませんが、それは画家が構図上描かなかっただけだとも言われます。




テオルボ、キタローネ、アーチリュートなど

*机を使う


*ストラップを使う

ネックの長い楽器には机かストラップが必需品だったと言えそうです。


バロックギター

*ストラップを使う

ストラップは非常に良く見られます。

*机を使う

左の図像では左腕を机の上に置き、右はギターのボディを机に載せています。

*保持具なしで構える

いくつかの画像ではストラップなどなしで楽器を構えています。
現代のフラメンコギター奏者の様に支えていたのかもしれません。中と右の画像ではギターのボディを腰にあてて支えています。

またリュートと同様に多くのギターは背面に2つのストラップボタンを持っています。
ここにリボンかガットが張られて上衣のボタンに引っかけていた可能性も大きそうです。



19世紀ギター

*足を組む


*足台を使う


*ストラップを使う


*保持具を使う

アグアドは三脚状の保持具トリポッド(トリポディオン)を考案しました。

*机を使う

ソルは机を使うことを勧めています。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

まとめと応用
次のようにまとめることが出来ます。

16世紀中期までを親指内側奏法で弾く場合:低い椅子かテーブル
16世紀中期以降18世紀までの全てのリュート属の楽器を弾く場合:テーブルかストラップ
19世紀ギター:様々な方法があるが、テーブルかストラップ、もしくは足台。


注意すること
姿勢を考える場合、もっとも大切なのはその姿勢が「絶対的に正しいかどうか」というよりも「自由でリラックスできる姿勢かどうか」です。
実際、理想的に思える姿勢があったとしても、ずっとその構え方を続けているとかならずどこかの筋肉が披露して無理が生じます。
ですので、「無理がなくリラックスしている状態」を身体が感じることができ、フレキシブルに姿勢を変えられることは重要です。
また、歴史的教本で戒められているように、背中を丸めてしまうことには特に気をつけましょう。
これは身体に負担なだけでなく、見た目も悪く、良いことは何もありません。その意味からも足を組んで弾くのは避けましょう。
足台は上手く使うと有効ですが、足の位置が固定されてしまい、また古楽器にはかなり高めになる場合が多いので、
あまりお勧めはしません。
ストラップも上手く使うと大変有効で、また立奏も出来るメリットがありますが、楽器の固定には注意を払う必要があります。


実際に机を使ってみる
上で見たように全ての楽器でテーブルは使われています。実際にテーブルを試してみましょう。
参考にするのはトーマス・ロビンソンのリュート教本「スクール・オブ・ミュージック」です。


・・・まっすぐに(顔を上げて)座り、リュートの縁をテーブルに持たせかける。
自分の身体(胸)とテーブルと右腕でリュートを安定させる。
左手は自由に動かせるようにしておき、親指は(ネックを挟んで)常に人差し指の反対側に置く。
右手の小指を軽く、しかし手が滑らないようにしっかりと表面板に置く。
右腕もリュートを押さえつけないようにする・・・


次のように試してみましょう。
まず、滑り止めの布などをテーブルに敷き、テーブルの縁にリュートを持たせかけてみます。
左手なしで右手を軽く添えた状態でリュートが完全に安定するようにします。
表面板はやや上に向け、右手の弾弦位置が自分にとって最も良い場所にリュートを置きます。
指板は身体から離れすぎないように。
左手はテーブルの上に乗せても良いでしょう。


これは大変に快適な構え方です。 全てのリュート学習者にこの方法を体験することを勧めます。
これまでに様々な方法を試しましたが、やはりテーブルを使う保持に優るものはありません。
身体へのストレスが全くと言って良い程なく、とにかく保持が楽です。

ただ、テーブルの持ち運びは難しいので、他の方法も使います。
しかし、これまでにテーブルによる保持を体験したことの無い人には、まずテーブルを使ってみることを勧めます。
以下は言うなればテーブル保持の代替で、テーブル保持の快適さを身をもって体験していることが重要です。

クッションを使う
クッションをリュートと膝の間に置きます。クッションは市販のものを利用しても自作でも良いでしょう。
ある程度傾斜のある形にしてメッシュのゴムシートなどの滑り止めで包むと安定はより良いです。
楽器の位置や傾きの調整も容易、サムインサイド・アウトサイドどちらも自在です。
クッションは素材を選べばそれなりに小さくも作れます。
安定度が高く疲労も少ないので、僕は長時間のレコーディングなどの際にはこの方法を使っています。



ストラップと滑り止めを使う
ストラップは幅広の肩に負担がかからないものを選び、リュートの底部にループを作り、
その中にストラップを挿入して自由に動かせるようにしておきます。


膝にメッシュのシートなど滑り止めを置きます。バロックリュートやテオルボなどは薄いものを、
ボディの小さいルネサンスリュートなどの際は、ある程度高さのあるものを使います。


ストラップボタンのループを通したストラップをお尻の下に敷き固定します。

楽器は両手を全く使うことなく完全に安定します。
楽器を自分の体重で支えているので身体への負担は非常に小さく、
ことに大型のキタローネやバロックリュートをテーブル無しで支えるにはうってつけの方法です。

僕の師事したナイジェル・ノースももっぱらこの方法です。
彼の場合は完全な親指外側奏法なので、膝には薄い滑り止めを置き、楽器はかなりの角度をもって構えられています。



ギターレストを使う

バロックギターおよび19世紀ギターにはクラシックギター用のギターレストを使うことが出来ます。
これも大変快適ですね。ストラップは長時間の使用には肩に負担がかかるので、
僕はオペラなど長時間の本番やレコーディングにはギターレストを使っています。

戻る         質問する