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ポーランド日記 

ナイジェル・ケネディ/ポーランド室内管弦楽団とのリハーサル日記です。
(2003年11月2日ー11月6日)
このアンサンブルでは、11月に台湾および日本をツアーします。


11月2日

ポーランドのクラコワにやってきた!

ケネディとポーランド室内管弦楽団とのリハーサルのためである。
本番は台湾と日本で11月17日から27日まで。
ツアー自体は、その後、オーストラリア、ニュージーランド、
フランス、ドイツ、イギリスと続くのだが、オケはまた異なるようだ。
今日聞いた話では、オーストラリアではシドニーフィル、
ニュージーランドではオークランドフィルだそうだ。
そして、ヨーロッパではまたベルリンフィルである。

今日は移動日で、リハーサルは明日の午後から。
なかなか贅沢な時間の使い方である。

滞在はホテル・クラコヴィスキ。
三ツ星の高級ホテルで、スイートをとってもらっている。
リハーサルもこのホテルのコンフェランス・ルームで行われるようだ。
ホテルはクラコワのも郊外にあるようで、城壁までは徒歩7分と聞いた。
ホテルの目の前には博物館がある。

ホテルに着いたのは午後3時ころだが、
それから1時間もすると日が暮れてしまった・・・
しかも雨が降っている。
町を見物に行こうとも思っていたのだが、
仕方がないので、今日は部屋でおとなしくしていよう・・・




11月3日

午前中に楽器の調整などをしてから、午後1時からのリハーサルに赴く。

楽器は、クラウス・ヤコブセン作のラージ・テオルボと
1770年のジョルジュ・クジノー作のオールド(オリジナル)のバロックギターを持ってきている。

この夏に、日本で作ってもらった超軽量ケースのために移動は大変楽であった。
(といってもほとんど車に乗っているのだが・・・)


クジノーのギターは、これまでにコンティヌオではあまり使っていないのだが、
思い切って持ってきてみた。
板圧の重い楽器なので、鳴らしにくい面はあるのだが、
このような楽器がオーケストラの中でどのように響くのか、大変興味がある。

と!
クラウスのテオルボに異常を発見!
なんと、ネックと表面板の接合部分にハガレが生じている。
慌ててよく調べてみる。
ネックブロックと表面板の接着が緩んでおり、
また側板から表面板が浮いている箇所もある・・・

そういえば、昨日、空港でテオルボケースを落としてしまったことがあった・・・
ケースの中で楽器が動き、その衝撃が故障の原因らしい・・・

一言ケースメーカーのために弁明しておくと、
このケースは、楽器を持参せずに、
僕の描いた図面のみで無理を言って作ってもらったもので、
内部のパディングは僕自身が行うことになっていた。

しかし、到着した時点で非常に素晴らしく作られていたので、
ついついそのままの状態で使っていた。
明らかに僕の落ち度である・・・

とりあえず、ハガレがこれ以上進まぬように、
手持ちのガットなどで応急修理をしておく。
いずれにしてもこの状態で数日は持つであろう。
イギリスには6日に戻るが、ガトヴィックから製作家の工房に直行しよう。



11月4日

今日も1時からリハーサルである。
1時から4時までが第1セッションで、
ランチ(!?)を挟んで5時から8時までが第2セッション、
その後ディナーである。

幸い、テオルボにはその後大きな異常はなく、快調である。
・・・考えてみると、この楽器を誂えたのが1988年、
それから15年間、なんの問題もなく使い続けてきた。
この楽器で作ったCDは20枚はあるし、
使用したコンサート回数は掛け値なしに700回は超えるだろう。
この際、故障箇所以外もチェックしておこう。

ポーランド室内管弦楽団(PCO )は、悪くないオーケストラである。
団員はよくまとまっているし、雰囲気も自由である。
ただ、ベルリンフィルとの仕事のあとでは、ややだらしない感じというか、
田舎っぽさが目立つのは無理のないところかもしれない。

音楽的にもそうで、ベルリンフィルにあったような正確な音程や、
一糸乱れぬアンサンブルといったものはここでは期待できそうにない。

団員の演奏中の身振りは大きく、
それは演奏の方向性を統一するのに一役買っている面もあるだろうが、
緻密さにはやはり欠けてしまう。

団員の使用楽器を検分するのも楽しみにしてきたのだが、
ほとんどが、モダンかあまり質の良くないオールドに見える・・・

しかし!
このようなオーケストラが、本番では、
まるで神がかった様なものすごい演奏を時としてすることがある。
さて、今回はどうなるでしょうか?

休憩の際に、第2ソリストのコーラちゃんと話す。
彼女はまだ21歳。アイルランドに住む、愛らしくて性格も良い、
ものすごく可愛らしい女の子である。(若いときのマドンナに似ている・・・)

彼女は、この夏にケネディに見出され、
今回のツアーのソリストに抜擢されたのである。

彼女の家族はなんと日本に住んでいるそうで、
日本行きが大変楽しみだと話してくれた。

彼女の楽器はニコラ・ガリアーノ、
ナイジェルのデル・ジェスと並べると目立たなくなってしまうが、
なかなかの名器である。
僭越な意見だが、この楽器からはまだまだ音が出てくる気がした。
彼女のコンサート・ヴァイオリニストとしてのキャリアと共に、
この楽器の真価も発揮されるようになるのであろう。


僕のクジノーのギターについてだが、
コンティヌオでも十分に使えそうである。
ただ、これまで使用していたヴォボアンのコピーとは
奏法を随分と変える必要がありそうである。

一言で言えば、じゃじゃ馬と言うか、キャパシティの大きな楽器であるように思える。
うまく操るには、ブリッジ近くの弾弦、ネック上のラスゲアード、
親指外側奏法などをより極端に使う必要がありそうである。

しかし・・・再来週からのツアーにどの楽器を使用するかは悩みの種である・・・




11月5日

今日も午後1時からリハである。
3時までやってランチ、
その後、クラコワの音楽院に場所を移して、コンサートを行うことになっている。


市の中心にある音楽院での演奏会は押すな押すなの超満員であった。
響きの良い小ホールでの演奏だったが、PCOの音はとても大きく、
弾いていてあまり気分がよくはなかった・・・

皆、基本的に弓の圧力が非常に高いように思える。
もしかしたら、楽器の質があまり良くないので、どうしても頑張ってしまうのかな?
などと思う。

しかし、演奏そのものは、リハの時の数倍良かった。
本番に強い人たちなのであろうか。

ケネディはいつものように素晴らしいパフォーマンスを繰り広げたが、
コーラもものすごく良い演奏だった。

自由でのびのびしており、
リハの時はケネディよりも弱く感じられることの多かったバランスも、
言うことのない演奏であった。
思うに、PCOとは対極に、彼女は自分の楽器を信頼しており、
決して力まない術を心得ているのかもしれない。
・・・流石ガリアーノである。

演奏終了後、PCOはそのままワルシャワに戻り、
僕はケネディ、コーラ、それから数人のファンたちとでジャズクラブに行く。
ケネディの薦めるポーランドの土ビールを飲み、チキンカレーを食べる。
なかなか美味しい。

馬鹿話をしたり、皆の手相を見たりして、ついアルコールの度を過ごしてしまった・・・



11月6日

朝起きるとアタマが痛い・・・
どうやら宿酔いらしい。
胃薬を飲んで、熱いバスを使い、
どうやら人心地つく・・・

いよいよ今日はロンドンに戻る日である。
午後の飛行機だが、午前中はリハもなく、自由に使える!

今日こそは、クラコフ観光と考えていたのだが、外はあいにくの雨・・・
気温も随分低そうである。

あきらめてこうしてコンピューターに向かっている・・・

2時半のロンドン行きの飛行機に乗るが、ガトヴィック到着は午後4時半。
そこからルイスに住むリュート製作家の工房に直行し、
テオルボの修理を依頼することになっている。

というわけで、ロンドンに自宅に辿り着くのは夜も遅くなってからになりそうである・・・


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