ーオリジナル楽器とその特質についてー

セラスとの出会い−オリジナル楽器から教えられるもの」に書いたように、
私自身はソロの演奏会には特に(コピーではなく)
17,8世紀に製作されたオリジナルのバロック、ロココ時代のギターを主に使っています。

それは当初は「オリジナルの音と扱いを学ぶ」姿勢からきたものでしたが、
現在ではそういったものを越えて、オリジナルの音そのもの惚れ込んでいるのです。

私の経験では、よく修復/調整されたオリジナルの楽器は、
現在作られているどのようなコピー楽器よりも質の高い音色と遠達性を持っています。
私は現在、オリジナルのバロックギターを7本、コピーを3本所有し使い分けていますが、
結局はソロの演奏会にはほぼオリジナルのみ使っています。
そしてその結果には裏切られたことがありません。

ただ、オリジナルの音の出方は我々が通常馴染んでいるコピー楽器とは
非常に遠いところにあり、扱いと正当な評価にはそれなりの経験が必要です。
また、多くのオリジナル楽器はかなり長い間(100年以上?)弾かれていないので、
それなりの期間の弾き込みも必要です。

初めてオリジナルの楽器に触れた方は、
その楽器の音を「大きく鳴っている」とは感じられないことでしょう。
これまでにナイロン弦や巻き弦などを張った軽い(軽すぎる)コピー楽器に
馴染んでいる人ほどその度合いは強く、
大抵の場合は音を出そうとして力んでしまい、
そうなるとオリジナルの楽器は逆に雑音と沈黙で答えます。

しかし、心を鎮めて、楽器に正当なタッチで触れるとき、
オリジナル楽器はその大きなキャパシティと品の高い音色で答えてくれます。
そして、その音色のよさを一度体験してしまうと、
これまでに自分が馴染んでいたいわゆる「良く鳴る」コピー楽器が、
いかにシンプルで深みがないものであったか(まるでファストフードのような・・・)
に気づかれるでしょう。
そしてその遠達性たるや、まるでステージから放射線状に音が伸びていくようです。
音が「よく伸びる」とはまさにこのような現象でしょう。
演奏者を中心に円状に響くコピー楽器とはまったく異なります。
興味深いのは、オリジナル楽器はその「音量感」が楽器からの距離にあまり影響されないことです。
17,8世紀の人は秘法を知っていたのでしょうか?
(経年変化によって木材が乾燥、樹脂が結晶化し、
楽器の振動がより良いものになったとも言われます。
しかし、長い修行を経てマイスター試験に合格した当時の職人の音に対する感覚と技術が、
現代の一般の楽器製作家よりも優れていたしてもなんの不思議もないばかりか、むしろそうでなければおかしいでしょうね。
演奏家もそうですが、その技術/芸術が生きて呼吸していた時代のARTのレベルの高さは、現代では想像困難ですらあるのかもしれません・・・)

上に挙げたようなオリジナル楽器の特質はヴァイオリン族の楽器にも言えることで、
ストラドやガルネリなどの名器も「近い距離での音量感がある」というより、
「遠達性に優れた」そして「品格の高い」音の出方をします。
世界的な名手がこぞって数億円もするオリジナルの名器を欲するのはそのためであって、
けっして単なるステイタスだけではないのですね。

そして、オリジナル楽器を所有する喜びは非常に大きなものがあります。
やはりその時代精神を身近に感じることができるのは楽しいものです。

オリジナル楽器は一台一台個性を持っています。
そしてその個性は必ずしも現代の我々に理解しやすいものではありません。
ですので、初めてオリジナル楽器を入手された方は、
いわば騙されたと思って、その楽器と気長に付き合ってみてください。
楽器を信頼して付き合えば付き合うほど、
その楽器から得られるものは大きなものとなります・・・

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