ー出展楽器についてー

このHPにて出品されている楽器は、原則として専門家により良心的に作られ、修復/調整済みで、
コンサートなどに使用できるプロ仕様の一級品を中心に取り扱います。

主に自分自身が使っていた楽器および友人/門下生などからの委託品で、
委託楽器の出展に際しては、私自身がある一定の期間、自分の演奏会やライヴ、
スタジオでのレッスンなどに使用して、実用できることを確認しているものがほとんどです。

試奏のリクエストには可能な限り対応します。
特に価格の高いものや特殊な楽器に関してはそのように心がけています。
ただし、試奏にかかる送料などの費用はご負担いただくことがあります。
譲渡は原則として先着順ですが、ほぼ同時にいくつかのお問い合わせがある場合や
委託者の希望によっては、即決の方を優先します。

即決の場合でも、こちらの説明や楽器自体に不備がある場合は返品に応じます。


当方は古楽器の専門家として、HPに紹介する楽器は誠意を持って選びコンデションを確認しています。
希望する方には、奏法やレパートリーに関するアドヴァイスも出来る範囲でいたします。
古楽器は、元来、高貴な社会と文化の産物です。
楽器のお取引に関しては、お互いに紳士的な対応と格調の高さを旨としたいと願っています

また、宛名や差出人の名前、素性が書かれていないお問い合わせには応じないことがあります。


価格について

価格は当方から見て適正と思われる設定を行っています。
超安値ではありませんが、実用できる楽器としてはリーズナブルな値付けです。
しばしば「出来るだけ安価な楽器・・・」というリクエストもいただきますが、
「実用できる品質の高い楽器」を最優先に考えていますので、
「価格最優先」の方はどうぞ他をお当たりください。
委託者の希望で超安値の楽器が出品されることもありますが、
原則として、長い目で見て「買って良かった!」と感じられる楽器を扱いたいと思っています。


コンデションについて

修復や調整に関しては、あくまでも過度に行わないことをポリシーとしています。
また弦高など使用者によって好みが異なる箇所を調整する際は、
購入者が購入後に調整できる幅を持たせられるよう心がけています。
例を挙げると、ブリッジサドルとフレットなどは心持ち高めにしています。

またオールドや中古の楽器の場合、木材の収縮によるヒビ、割れ、接着箇所の透きなどは必ず起こります。
張り合わせの裏板のヒビ、表面板上の指板脇の亀裂、またパーフリングやインレイ、フレットが浮いてくることも同様です。
こういった箇所は、必要な場合は再接着したり、膠や蜜蝋などで空隙を埋めてリタッチの処理をしますが、
跡が残ることは当然あります。
塗装を剥がして再仕上げすると外観的には目立たなくなりますが、
楽器のオリジナリティを損なうことになるので、原則としては当方では再仕上げは行っていません。


オリジナル・ギターのフレッティングについて
後期のバロックギターや19世紀ギターのフレッティングについては、まだまだわかっていないことも多いのです。
平均率に近いものもありますが、明らかに何らかの古典調律を意図していると思えるものもあります。
1つ言えるのは、オールドの楽器の場合はフレッティングに際しての弦長の補正は通常行われていません。
たとえば現代のクラシックギター弦長650ミリの場合、第12フレットの理論弦長は325ミリですが、
ぴったり325ミリに設定すると、ほんの少しですが第12フレットの音が高くなります。
ブリッジのタイプにもよりますが、ブリッジの弦の結び目や弦の張力による現象です。
従って現代のギターの場合は、実際の弦長は理論弦長よりも1〜2ミリ長めに
(言い換えればフレットはほんのすこし低めに)設定するのが普通です。
しかし、私が検分した全てのオリジナルの19世紀ギターにはそういった補正は行われておりませんでした。

多くのオリジナル楽器では、ロウポジションでは低め、ハイポジションでは高めになっているようです。
そして、適正な弦と音高に調弦した場合はOut of tuneとは聞こえないのが普通です。
高い音を理論値よりもほんの少し高めに調律するのは平均率のピアノなどにも行われることで、
人間の耳にはより自然に聞こえるといいますが、19世紀のギターも同様のコンセプトで調律されているのかもしれません。

また、レニャーニ・モデルなどネックが取り外しできるギターは、
ネックとボディの接合部に小さな木片を挟むことによって弦長とフレットの補正を行っている場合が良く見られます。
多くの場合フレットの位置は高めで、木片によって補正をすることが前提であるようです。

ですので、フレットの打ち直しをする場合でも、自動的に平均率に変更することは避けるようにしています。


糸巻きについて
リュートやアーリーギターの殆どは木製のペグを持っています。
木製のペグはそれなりの注意さえ払っていれば、指に暖かく使いやすいもので、調弦も素早くスムーズに出来ます。
しかし、モダンギターなどで機械式の糸巻きに慣れた人がいきなり木製ペグの楽器に持ち替えた場合は、
多かれ少なかれ戸惑うのが当然です。まずは自分自身が慣れること、そしてペグの調整をしっかりとすることです。
市販のペグペーストなどを使うことで、また弦の巻き方によっても糸巻きは扱いやすくなります。
またしばしばモダンギター奏者の楽器に見られることですが、高すぎるテンションの弦を張った場合、木製ペグは回しにくくなります。

ランスやベイカーに代表される機械式の糸巻きの殆どは現在でも問題なく使用できます。
ただ、やはり長年の使用による磨耗は避けられず、多少のガタが見られるのが普通です。
思うように調弦できない場合はパーツの交換になりますが、
完動の古い糸巻きを使用する場合でも、糸巻きをいたわりましょう。
弦の交換時など調弦を下げる際に、糸巻きのギアが滑ったりノイズを発する現象はよく見られます。
弦を緩める際は、糸巻きの負担を減らすために、
右手で弦のテンションを受け止めながら左手で糸巻きを回すことを薦めます。


移送に際して
楽器をイギリスから日本に送るには、通常イギリスの郵便局Parcel Forceを使っています。
もっとも安価でまた安心と思われるサーヴィスです。
梱包に際しては細心の注意を払っていますが、それでもごく稀にですが移送の際に何らかの事故が発生する場合があります。
これまでには、力木の緩み、接着箇所の剥がれ、小さな亀裂などの故障を体験しました。
幸い、いずれも大事(おおごと)にはならない小さなもので、修理も比較的簡単に済むものでした。
移送時の事故により楽器が破損した場合は、原則として楽器の返却/返金に応じます。
購入者側で修理を行われる場合のコストなどについては、ケース・バイ・ケースで対応します。
これまでに使う必要はありませんでしたが、移送時に修理費用の保険はかけてあります。

どんなに梱包を気を使い、「壊れ物」扱いで送っても、地球を半周して繊細な楽器が旅をするわけですから、
移送時の事故を完全に避けることは不可能でしょう。
楽器の故障は無論気持ちの良いものではありませんが、万一起こった場合でも、
お互いにパニック、激昂することなく、冷静にベストの解決案を話し合いたいものです。
古楽器はたとえどんな損傷を受けても、適切な修理により立派に生き返ります。



修理の必要性とタイミング
以下は私自身が所有する楽器に適用している考え方です。

どんなに丹念に作られよく保存された楽器でも、
年月が経つうちに木材の収縮率の違いによるヒビ、割れ、隙、剥がれなどは必ず起こります。
表面板の接着の合わせ目や指板脇、張り合わせの裏板、一枚板の横板などは起こりやすい部分です。
これはたとえほとんど弾かれていない「ミントコンデション」の楽器でも同様です。
もしも100年以上経っている楽器のはずなのに、隙のないぴかぴかの楽器があったら、
それはすなわちfakeか、近年に大幅に修理されているということです。

また、丁寧に弾いているつもりでも指や爪のあとなど傷はかならずつきます。

ユウやローズウッドなどは割れやすい材質で、裏板にこれらの材料が使われている場合、
気が付かなくてもおそらくどこかに割れを生じているはずです。
リュートのリブ間にはかならず多少の隙が生じます。
古いギターで、力木が側板を圧迫していないものは珍しく、
多くのものは側板に何らかの変形を与えています。
力木やライニングが緩むことも良くあります。
表面板も変形しやすく、大抵ブリッジのローズよりはへこみ、ローズ周りは盛り上がります。
他には、
フレットの両端が指板より出る、フレットが減る、フレットが浮く。
パーフリングまわりに隙間が生じる、ニス落ちする、ペグがペグ穴に入り込む、
などが経年変化や長年の使用によって起こります。

では、以上のような現象にどう対応したら良いでしょう。
・・・私自身は基本的に、演奏に支障がない限りはそのままにしておきます。
特に新しい(古い)楽器を買ったときは、様々な欠点?が目につきますから、
どうしてもすぐに何らかの修理をしたくなります。
特にわれわれ潔癖な日本人はすみずみまでぴかぴかにしたい傾向にあるようです・・・

しかし、大概の場合これは良い結果を生みません。
思いつめないでちょっとリラックスしてみましょう。
古楽器はたとえ故障はしても爆発したりはしませんから・・・

経年変化による多少の剥がれや隙は、実演には支障をきたさないものが殆どです。
無理にその箇所を再接着したりすると他の箇所にストレスがかかる場合もあります。
また、当初欠陥だと感じられたものが、
しばらく使っているうちに問題でなくなる場合も多いのです。
古いニスが剥がれた箇所は「味」として楽しむようにしましょう。
アンティークはクリーニングすると骨董的な価値は減少しますが、古楽器も同様です。

しばらくその楽器と付き合っているうちに、どうしても修理が必要と思われる箇所はおのずと明らかになってきます。

古楽器はどんなに丁寧に使っていても、コピー、オリジナル問わず
数年間のうちにはそれなりに大きな修理か調整が必要になります。
代表的な調整ポイントは力木と弦高ですね。
これは工作精度や使い方の問題ではなくて、リュートやアーリーギターの宿命のようなものです。
バロック時代からそうであり、トーマス・メイスなどはリュートのオーナー自身が
定期的に表面板を開けて楽器をチェック、力木を再接着することなどを彼の教則本で薦めています。
いわば車検のようなものでしょうか。

・・・私自身も考えてみれば同じようなことを行っています。
私の使用楽器のうち、もっとも稼働率の高いテオルボとバロックギターの場合は、
2年に1回くらい、ツアーの合間を見計らって、たとえ故障がなくとも工房に預けます。
弦高や力木の具合、ブリッジ、裏板の割れなどを製作家にチェックしてもらうためです。
オリジナル楽器も多く所有していますが、
実演にとりあえず用いない楽器は、多少の故障があってもすぐに修理にだすことはありません。
緊急の場合はともかく、通常はしばらく様子を見て楽器が落ち着いてきたら工房に預けます。

そういった際、表面板を(部分的にでも)開ける機会があれば、
気になっている箇所をチェックして必要な場合は修理を行うようにしています。


古楽器を所有する人は、トーマス・メイスに倣って、多少の調整は自分で出来るようになるのが理想的です。
表面板を開けるのはそれなりに大仕事ですが、ちょっとした接着箇所の剥がれやフレットと弦高の調整、
ペグのフィッティング、必要な場合はクリーニングとリタッチくらいは出来るようになると良いですね。
元来、それぞれオーダーメイドで作られた古楽器は1本1本異なります。
自分の使用楽器は自分が一番良く知っていると胸を張りたいものです。

車のボンネットを開けたことがなくエンジンの稼動原理を良くは知らなくても運転免許は取れますし、
構造の知識がなくとも冷蔵庫は使えますが、古楽器のオーナーとなるにあたっては、
楽器の構造と調整の知識は持っていたいものです。
そういったことは全て楽器に関する自分の理解を大きく増やし、演奏にも大きな力になります。
そしていざ何らかの大きな故障が生じた際にも、冷静に対処することができるようになるでしょう。
歴史的な構造とマテリアルにより製作された古楽器は、たとえ故障しても大抵の場合
簡単に直るものなのです。

もちろん、歴史的に重要な楽器の場合、大きな修理や調整は専門家に任せるべきであることは言うまでもありません。


返品について

これまでに稀ですが、お取引成立後しばらくたってのから楽器の返品を申し出られたことがあります。
それは多くの場合、親御さんや先生、配偶者の方に楽器購入がバレてしまった、ご病気などのため演奏できなくなった、
手元不如意になった・・・などの理由ですが、委託品が多いこともあり返品には原則として応じられません。

しかし、事情により相談させていただいて楽器をお引き取りできる場合もあります。
その場合はケースバイケースですが、10〜30パーセントほどの損料をいただくことがあります。

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以上、思いつつままに書きましたが、参考となれば幸いです。

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