作者不詳:ソプラノ・アルペジョーネ
ドイツ/オーストリア、19世紀末ー20世紀前半



非常に興味深い楽器です。小型のアルペジオーネ。

アルペジオーネは19世紀の初頭に考案されたギターとチェロのハイブリッド楽器。
6弦を持ちギターと同じ調弦を持ちますが、チェロのように構えられ弓奏されます。

19世紀にはウィーンを中心に流行した楽器で、シューベルトの「アルペジョーネソナタ」は良く知られた作品です。

現代ではチェロで弾かれることの多い作品ですが、アルペジョーネの特質が非常によく生かされており、
アルペジョーネで弾いて初めてこの作品の真の姿が現れると言って良いでしょう。

アルペジョーネはチェロほどの大きな音量は持ちませんが、演奏の快適さや豊かな響きはチェロを遥かに凌駕すると言え、
また当時のフォルテピアノとの相性も抜群です。

参考:アルペジョーネによる演奏動画
https://www.youtube.com/watch?v=do9UgdfwM5Q

またシュスターによる教本も残されています。


シューベルトの他には多くの曲が残されてるわけではありませんが、それはアルペジョーネの使用が限定されていたというよりも、
むしろ逆で、他楽器や声楽の作品なども演奏できる万能楽器、汎用楽器として位置づけられていたからです。
こういったことはフラジオレットやマンドリンなどにも見られます。

↓はアルペジーネの発明者シュタウファーの作品です。


↓はそのコピー、ドイツのロート作で拙HPで先頃扱いました。


今回の楽器は非常に興味深いことに小型のアルペジオーネです。弦長36センチ、全長69センチ。
現状では通常のギターやアルペジオーネのオクターブ上、ミラレソシミに調弦されていますが、
ガンバに慣れている方は、トレブルガンバの調弦(レソドミラレ)にすることも考えられるでしょう。
弦長36センチはどちらにも無理なく対応できます。

12の金属フレットがあります。
シュタウファーのアルペジオーネには24のフレットがありますが、
シュスターの教本によると、当時のギターと同じく12フレット以上使うことはまれであったと思われます。、
また12フレット以上の音域も使う場合も、小型の楽器の場合、高いポジションはフレットとの幅が狭くなり、
フレットの高さによりかえって音程がとりにくくなるので、フレットレスになっているのではと推察されます。

19世紀初頭、アルペオジーネに様々なサイズがあったかどうかは報告されていませんが、
今回の楽器は1900年前後、ドイツで古楽器の復元製作が盛んになった時期のものだと思われます。
この時代には想像楽器に近いものも製作されたでしょう。
もしかするとトレブル・ヴィオラ・ダ・ガンバとのハイブリッドかもしれません。

スプルースの表面板。いくつかの修理済みのヒビがあります。


裏横は美しい木目を持つメープル。「ギターチェロ」の名の通りギターに似ている形状です。


ヘッドには6本のペグ。


ヘッドには埋められたペグ穴?があり、他の形式の糸巻きが付いていた時期もあったのかもしれません。


私自身は擦弦楽器の心得はあまりないのですが、軽く弾いても鳴らしやすく、ギター調弦のこの楽器には特別に親しみを覚えます。

前述したようにアルペジオーネは汎用楽器として用いられた節がありますが、
今回の楽器は高音楽器としてヴァイオリンやフルートなどの作品を演奏するのにもうってつけでしょう。
特にギターやガンバを弾く人で、19世紀以降のレパートリーの旋律を担当してみたい方にお勧めしたい楽器です。


戻る                               メイル