イングリッシュギター教則本への前書き
初めに
この教則本は、これからイングリッシュギターを始められる方たちのために書きました。
イングリッシュギターは18世紀の後半、ジョージアン時代のイギリスで爆発的に流行しました。
音色が美しく、持ち運びも自由で楽器も比較的安価、演奏技巧は平易で初心者でもすぐに楽しめるため、
若い女性を中心とした層に愛されました。
簡素な単旋律から高度なソナタ、ファンタジーまで楽曲のスタイルは多岐に渡っています。
現代のアーリーギター/リュート音楽愛好家にとって18世紀後半はレパートリーが少ない時代ですが、
イングリッシュギターはその空隙を豊かな響きと多くの作品で埋めてくれます。
イングリッシュギターに興味をもたれる方の多くは、既にクラシックギターやリュートを嗜んでいると思いますが、
この本は、初めて撥弦楽器に触れる人にも出来るだけ理解しやすいように配慮して構成しました。
イングリッシュギターはギターやリュートの仲間ではありますが、構造、演奏技巧、
楽曲のスタイルなど異なるところも多い楽器です。
他の楽器の技巧を流用すると曲を弾くまでの時間は多少短縮できますが、
ある時点から上達が阻まれてしまい楽器本来の素晴らしさを体験することは困難になってしまいます。
したがって、これまでに何らかの楽器の経験がある方も初めての方も、新鮮な気持ちで取り組んで頂ければと思います。
イギリスには、ロンドンの大英図書館(BL)を初めとする各地の図書館や個人の書架に
多くのイングリッシュギター関係の歴史的文献が残されています。
私は2006年の夏にその資料収集に力を注ぎ、歴史的教則本と重要な曲集を全て入手し研究しました。
その成果はいずれCDに録音し教則本にまとめるつもりですが、
今回、手始めとして概説的な入門書を書くことに致しました。
この小冊子が、この愛らしく素敵な楽器の魅力を引き出す助けになることを願ってやみません。
竹内太郎
2006年夏 ロンドンにて