竹内太郎著「バロックギター演奏法」への加筆/補遺


このたび、上記教則本に変更、補遺を行いました。
第18章:組曲ハ長調(ドロジエ/コルベッタ)におけるル・コック作品集の装飾音表の説明ですが、
拙教則本では簡単にしか取り上げておりませんでした。
やはり説明不足の感は否めませんので、ここに加筆を行いたいと思います。

このカスティリオン編集のル・コックのギター曲集[Recueil des pieces de guitare]は大部のものですが、
楽曲と同様に教則の部も非常に充実しています。
ギターの弦やフレットについての示唆、タブラチュアの読譜の説明のみならず
一種の音楽辞典まで内包していて大変有益です。

現在、竹内が全文の邦訳を行っていますので、いずれ教則本の別冊として発売するか、
あるいは、現代ギター誌あたりに掲載することになるかもしれません。
ド・ヴィゼの教本/曲集を中心としたフレンチバロックギターの奏法については、
新たな手引きを作成することも考えています。
どうぞ楽しみにお待ち下さい!(お問い合わせはここへ)

下のページの右下にあるのが奏法/装飾音の表です。順番に説明していきましょう。
この部分はド・ヴィゼのギター曲集(1682年/1686年)の写しとも言えるものですが、
ド・ヴィゼの奏法/装飾音については、いずれ稿を新たに論じたいと思います。


第1段左
Cheutes:上行のスラーですね。
装飾音としてはフォール、アポジャトゥーラとしても解釈でき、
その場合の記号は アルファベットの左に( です。


Trades:同じく下行のスラー。
装飾音記号としてはアルファベットの下に )。



第2段左
Tremblement:トリルですが、実施にはいくつかの可能性があります。
基本的に主音の上から主音への一種のフォール(上からのアポジャトゥーラ)として解釈できますが、
サンスやグラナータなどイタリア/スペイン系の作曲家の作品には、
主音から始まり主音へ戻るものも多かったでしょう。
またフランス系の作品にも、この主音から始まるトリルが存在していたのも確かです。
トリルの数ですが、コルベッタなどの教則によれば主音の上からの一回だけ、
つまりこの場合Tremblement はTiradesと(楽譜上では)限りなく近いことになります。
(表面上にあらわれる唯一の差違はタイミングでしょうが、より深くは楽曲における和声と旋律の捉え方とも言えます)
トリルの回数を音価により加減することももちろんありえたと推察できます。


Martellement:モルデント、これにも各種の可能性があります。
主音から半音もしくは全音下に行き主音に戻るのが、一般的な解釈です。
回数はコルベッタなどによれば1回だけ(一往復)です。


Mialement:ヴィヴラート、猫の鳴き声を模した用語ですね(ミャオー)。
ド・ヴィゼやサンスはヴィヴラートの実施には「左手の親指をネックから外す」ことを薦めています。



第3段左
「縦の線のついた音符(複数)は、親指で弾かれ、非常に多くの場合はバッテリー(ラスゲアード奏法)の形をとる・・・」
と書かれています。
フランスのリュート曲集(例えばゴーティエ)にも良く出てくる記号です。
また、ド・ヴィゼの曲集には煩雑に現れてくる記号ですが、親指だけで全部の弦を弾く一種の速いアルペジオ、
または低音弦(複数のこともある)を親指で弾き、は最上音だけを中指もしくは人差し指で弾く、
もしくはド・ヴィゼはこの記号を単に親指の記号としても使用もしていて、
決定的な解決がなかなかとりにくい記号ですね。
ル・コックの説明は、「実際はほとんどラスゲアードである」とも読めますから、
親指の速いアルペジオと考えるのがより実際的かもしれません。


タブラチュアの音符の間の斜めの線は、それらをセパレートして(時間差を持って)弾くことを示しています。
一種のリズミック・アルペジオと見てよいでしょう。



第4段左
点ひとつは人差し指で、点ふたつは中指で弾かれることを示しています。


タブラチュアの音符にはさまれた縦線は、これらの音符のみをプンテアードで弾く
(音符以外のコースは弾かれない)ことを示しています。
ド・ヴィゼの曲集においては、この記号とラスゲアードのサイン(第5段左におけるような)が、
同時に使われているところもありますが、別稿で!


タブラチュアの線上に点のついたコースは弾かれません。



第5段左
タブラチュアの記号の間にある音符(おたまじゃくし)はラスゲアードを示しています。
おたまじゃくしの尻尾が下向きの場合は、低音(第5コース)から高音側へのラスゲアード、
おたまじゃくしの尻尾が上向きの場合は、高音(第1コース)から低音側へのラスゲアード。


横になった半円の記号は、親指を使用するやわらかいダウンのラスゲアードを示しています。
記号がタブラチュアの中に入っている場合は(薬指)、中指、人差し指などを親指とともに用い、
タブラチュアの下にある場合は親指のみを使用します。
ド・ヴィゼの教本第1巻によれば、、
「短い音価(4分音符など)の場合は親指による、
長い音価の場合は他の指も使用して親指にてやわらかく終わる」。
要するに、求むべき音の長さによって指の数を加減して良いのでしょう。
やはり一種のやわらかいかき鳴らし、もしくはアルペジオの効果でしょうか。



そして、これらの記号および説明の下に次のように書かれています。

「ル・コック氏は、彼の甘く調和の取れたアルペジオの記号を示していない・・・
しかし、その例は曲集の第7ページの第5段に見ることが出来る。
これらを参考に、他の箇所も探されたい・・・」

この該当曲は、モダンギターのレパートリーとして比較的良く知られたイ短調の組曲のエールです。
残念ながらブローウェル版は小節数まで変更されているほど変形箇所が多いのですが、
いずれオリジナルに忠実な編曲なども発表したいと思っています。、


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