トレヴァー・センプル作11コースリュート(1975年/2022年) 
試奏動画:https://www.youtube.com/watch?v=kJIO_1PJkx8 


製作者トレヴァー・センプルはイギリスの弦楽器製作者で、現在はギターの名工として非常に高い評価を受けています。


製作者のホームページ 

彼は少数ながらリュートも製作しております。
今回の楽器はもともと大き目(弦長68.5センチ)の8コースとして製作されていますが、今回11コースバロックリュートに改修を行いました。


このような改造は17,18世紀にも多く行われています。今回モデルにしたのは下の絵画です(ドイツ、18世紀中庸)。


この絵画のリュートはデフォルメはされていると思われますが、以下のようなことが分かります。
15本のペグ、小さなロゼッタ、ダブルフレット、弦は①②単弦、③~⑦複弦、⑧~⑩単弦。
①~⑥はガット、⑦は赤いガット、⑧~⑪は巻き弦です。
ブリッジは楽器の中央ではなく低音方面に寄っています。
10コースの楽器ですが、描かれている楽譜は11コースバロックリュート用です。



この楽器は、最初からこのデザインで製作された可能性もありますが、
おそらくは
もともと8コースの(ルネサンス)リュートかマンドーラであったのが、当時最新の巻き弦を使い、
低音の3本のみ単弦としてコース数を増やす改修が施されたと思われます。

リュートの低音の複弦は、太いガット弦では喪われやすい高い倍音を補完する意味もありますが、
巻き弦の場合は不必要なので単弦にされたのでしょう。

11コースではなく10コースにアレンジしている理由は定かではありませんが、
もとの楽器が15本のペグを持っていたから、オーナーの個人的な意向、実際はマンドーラだった、描き間違い、などが考えられます。

いずれにしても大変興味深いリュートであることは間違いありません。

今回のリュートも上記に従って、ブリッジの延長、ナットの作り替えを行い、11コースに改修しました。
弦も絵画のリュートに倣って①~⑥ガット(ナイルガットとKF弦含む)、⑦赤いガット、⑧~⑪巻き弦で張り、ダブルフレットを巻きました。

結果は非常な成功で、弾き心地は快適、音色も非常に良いリュートに仕上がったと思います。
試奏動画です。https://www.youtube.com/watch?v=kJIO_1PJkx8

ハーゼの飛ぶ上質の表面板。



リュート用材として定評のあるホワイト・アッシュ13枚の裏板。ダイナミックな美しさです。


弾きやすく、音色の良さも特筆すべきで、やはり天才弦楽器製作者の作品です。



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