小説 ネコのストラディヴァリ


ストラディヴァリという人はとてもたくさんの楽器を作ったそうです。
ヴァイオリンのなかまやギターやマンドリンも作ったそうです。

1642年くらいに生まれて95さいまで生きたそうです。
ずいぶん長生きですね。
そして死ぬまではたらいていたといいます。
きっとろくな家族に恵まれなかったのにちがいありません。
かわいそう・・・


おじいさんになってもはたらくストラディヴァリさん


ストラディヴァリのヴァイオリンはねだんがとても高いそうです。
何おく円もすると聞きます。

ヴァイオリンを弾く人が、家を売ってストラディヴァリの楽器をかったという話をききました。
でもこれはきっときっとうそだと思います。
あんな小さな木のかたまりに何おく円もはらう人がいるとは信じられません。
家はあったほうがいいし、たとえ売ってなにか買うにしても、
かっこいいクルマなんかのほうがオンナの子にもてるとおもいます。

ぼくもむかしストラディヴァリのギターをひいていたことがあります。
といってもほんものではなくてストラディヴァリのギターそっくりに作られた楽器です。


ほんものはイギリスにあるのですが、ほんものを見に行った時に
「なんだそっくりだ!」と思いました。
ほんものはなんだか古ぼけていて、はくぶつかんのおねえさんに聞くと、
「ふるくてひくことはできない」そうです。


ぼくの楽器はぴかぴかしていて、しかもちゃんとひくことができます。
だからぼくの楽器の方がほんものよりもエライ!とおもいました。

でもあとでひとに聞くと、楽器はふるいほうがねだんが高いのだそうです。
とてもふしぎです。
日本のことわざにも「たたみはあたらしいほうがいい」というではありませんか。

・・・もうひとつあたらしいほうがよいものがあったような気がしますが、
いまちょっとおもいだせません・・・

ときどきいっしょにひいたりして遊ぶケネディくんは
むかしほんものストラディヴァリのヴァイオリンをひいていたそうです。
きいてみると「ああ、たいしてよくはないよ!」
というへんじでした。
いまはガルネリという楽器をひいているそうですが、
こっちのほうがうんとすきだそうです。

・・・ただガルネリというひとは人をころしたりしてけいむ所にはいっていたことがあるそうです。
ガキだいしょうのケネディ君ですから、あんがいそんなところがすきなのかもしれません。
・・・ぼくもお母さんに「ケネディ君にはあまりちかづかないように」といわれているので、
なるべくそうしています。

・・・・・・・・

このあいだ、ともだちになったネコくんとはなしていました。
かれはクラシック音楽がすきなかわったネコで、
ときどきうちにあそびにきます。


ストラディヴァリのはなしになったとき、ネコ君は、
「そういえばストラディヴァリのヴァイオリンをもってるともだちがいるニャン。
ゆずってもらうようにたのんでみるニャン」といいました。

ぼくはびっくりしてさっそく楽器を見せてもらいましたが、
とてもふるいヴァイオリンです。


中には「あんとにお・すとらでぃばり」とローマ字でかいた紙がはってあります。
これはもしかしてほんものかもしれません。



さっそくはくぶつかんに、ほんもののストラディヴァリのヴァイオリンを見にいきました。

なんでも「めしや」という名前が付いているヴァイオリンだそうです。
イタリアン・レストランのおやじさんか誰かがが弾いていたのでしょう。

びっくりしました。
はくぶつかんのはぴかぴかで、ちっともふるそうにみえません。


これはきっとこっちがにせもので、ネコくんのヴァイオリンがホンモノにちがいありません。
いずれにしても「楽器はふるいほうがねだんが高い」のですから、
ネコくんのヴァイオリンのほうがよいものなのはまちがいなさそうです。

ネコくんに値段を聞いてみると、450カツブシだといいます。
カツブシはネコくんたちのお金のたんいで、1カツブシはだいたい4ポンド、日本のおかねで1000円くらい、
ですから45まんえんといったところでしょうか。
ふるいほんもののストラディヴァリのヴァイオリンにしてはわりとやすいと思います。

それからひとつ大はっけんをしました。
ネコくんの本物のストラディヴァリには1742年せいさくとかいてあります。
ふつうはストラディヴァリは1737年になくなったことになっています。
でもほんものの楽器に「1742年」とかいてあるのですから、
ストラディヴァリはきっと100さいいじょうまで長生きして、
働かされていたのにちがいありません。

ますますかわいそうなストラディヴァリおじいさん・・・


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