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その2:調弦をやさしく!


初めて古楽器を手にした方がまず戸惑うのが調弦です。
クラシックギターに慣れた人でも木ペグの回しにくさ、固定の難しさには泣く事でしょう。
ましてやこれまでに楽器の経験が無い人は「もうどうしたらよいか分からないー」となるかもしれません。
そして、挙句は「こんな不良品を押し付けられた!」と怒り、嘆く人もいるでしょう。

私も最初のリュート(8コースルネサンス)を入手した日は、調弦にかかりきりになって、
結局は朝方までかかって何とか調弦した覚えがあります。
「こんなに不便な・・・」と当時は思いましたが、結局はその楽器で沢山のステージもこなしましたし、
現在では調弦はまったく苦にならず、また「調弦の速さと安定度」では業界一を誇っています(←ウソ)。

ここでは少しでも調弦をやさしくするコツを書きましょう。

弦を換えるべき?

弦のマテリアルにはガット、ナイルガット、ナイロン、カーボン、それから各種の巻き弦があります。
理想的にはガット弦の使用が望ましく、ナイルガットはその代替品として有益です。

初心者が初めて楽器を調弦する場合、
弦を換えると調弦の安定度は下がり、なにかと大変なので、
とりあえずは現状の弦(それが何であっても)を使い続けて良いと思います。
そうして、張力や音高などにある程度のアイデアと経験を得てから、
しかるべき弦に交換するのが良いでしょう。
弦に関しては後のチャプターで詳しく触れる予定です。


チューナー
チューナーは調弦に必須ではありませんが、音高を即座に知ることが出来るので初心者には参考になりますし、
アンサンブルなどをなさる方にも便利です。

最近流行の超小型クリップ式チューナーも使いやすく便利です。

ただ、チューナーには頼りすぎないことが肝心です。
調弦はあくまでも自身の感覚で行うものです。


弦長を計る
メジャーでナットからブリッジまでの弦長を調べて見ましょう。
ルネサンスリュートの場合54センチから66センチくらい、
バロックリュートの場合66センチから71センチくらい、
バロックギターの場合63センチから70センチくらいの間に収まるのが普通です。
(これら以外でも問題があるわけではありません)


音の高さ(ピッチ)
現代のコンサートピッチ(モダンピッチ)はおおむねA−440〜443くらいですが、
古楽器にはこれよりも低いピッチを使うことが多いのです。
よく用いられるのはA-415(モダンよりも半音低い)、A-392(モダンよりも全音低い)などが
一般的ですが、実際にはまだまだ多くの中間的なピッチがあります。

ピッチと音の高さの問題は混乱しやすいので、とりあえずここではピッチはモダン(A-440)に固定して、
代表的なリュートとギターの推奨される大体の音高を以下に示しておきます。第1弦の音高です。

ルネサンスリュート
弦長56センチ: G
弦長60センチ: F♯
弦長64センチ: F
弦長66センチ: E

バロックリュート 
弦長66センチ: D♯
70センチ: D

バロックギター
弦長63センチ: D♯
弦長67センチ: D
弦長70センチ: C♯

19世紀ギター 
弦長64センチ: D


一般的にはより高めのセッティングがおこなわれていますが、
それはナイロン弦を高張力で張ることを前提としたものです。
ガット弦を適正な張力で使うことを考えると、これくらい(もしくはそれ以下)の音高が妥当と言え、
左手の押弦は楽になり、楽器もより自由に鳴るはずです。
参考:バロック時代のピッチについて)

ペグペーストを塗る
ペグの調子が悪い・・・とはよく聞くことですが、
実際にはフィッティングに多少の問題のあるペグでも、やり方によっては快適に使えます。
回りが悪い場合はペグ用のペーストを塗りましょう。ペーストは通常の楽器店で購入できます。

ペグを一旦抜いてヘッドに当たる摩擦部分にペーストを塗り、
差し込んで回します。
本当はペーストの塗り方にも細かなコツがあるのですが、
ここではとりあえず「塗って回す」だけにしておきます。
これだけで、ペグの調子は格段に良くなるはずです。


ペグの留まりが悪い場合は、松脂やチョークを塗ると留まりやすくなります。


ペグの回し方
ペーストが塗られて調整されているペグを回すのに大きな力はいりません。
特に女性で「(力が足りなくて)ペグが回らない」と訴える方は時々いらっしゃいますが、
コツを掴めていない場合がほとんどです。
ペグを回すのには指先を使うのではなく、人差し指を曲げて第1関節付近と親指で挟むのがコツです。
   
左:悪い例
右:良い例



弦の巻き方
弦の巻き方にもコツと方向があります。
ペグの頭方向に向けて弦を巻き、ヘッドの壁に弦が少し触れているようにします。
こうしておくと弦がストッパーとなり、緩みにくくなります。

しかし、あまりにもきつく弦とヘッドが密着すると、
ペグが回りにくくなり、弦、ペグ、ヘッドの損傷の原因になります。

古楽器の取り扱い全般に言えることですが、
くれぐれも無理は禁物です。
ペグが回りにくい場合など、無理に回さないでよく観察してみましょう。
古楽器の構造は単純ですから、何か問題が起こった場合でも
良く観察することで殆どの場合は適切な解決策が得られます。
 
左:リュートの場合
右:ギターの場合



オクターブを間違わない!
チューナーを使って調弦する場合に、
しばしば間違ったオクターブ或いは5度の音程(例えばソに調弦するつもりがレなど)
などに調弦しようとしている場合があります。
チューナーもしばしば共鳴の音を表示してしまうのですね。
これが起こりやすいのは低音および低音のオクターブ弦です。
ペグが固くなって回らなくなってきたり、
張力が他の弦と違う時は、ちょっと頭を冷やしてよく耳を使って
正しい音に調弦しようとしているかどうか確認してください。


こまめに調弦する
調弦は頻繁に行いましょう!
調弦をサボっていると、弦が狂っていくだけではなく、
ペグは固くなり回りにくくなっていきます。
また人間の耳も調弦を頻繁に行うほうが鍛えられます。
稀にレッスンで「先生、家を出る前にばっちり調弦してきました!」
と仰る生徒さんがおられますが・・・・・・まあ論外です。


Appendix
イギリスのリュート協会のために書いた「調弦をやさしく」の記事です。
記事の後に日本語でも簡単に説明しておきます。




要旨:
調弦はA=440, 415, 392などに拘らず、それぞれの楽器の特性と自分の好みでピッチを決める。
まず第1コースを『きつくも緩くもない気持ちの良い音がでるちょうど良い高さ』(ダウランド、1610年)に調弦する。
ちなみに現代の通常のセッティング(弦長60センチ=G、54センチ=A)はガット弦には高すぎる。全音くらい低いピッチがおススメ。
フレットを二重に巻く『ダブルフレット』は音色をよりファジーにまたカラフルにし、調弦は容易になる。
異名同音(レ♯とミ♭など)のためにフレットを分割する方法は現代にしばしば行われるが、歴史的には用いられていない。
4度を広め、5度を狭目にとり、3度を純正に近くすると綺麗な響きになる。
第1,3,5フレットは高め、第2,4フレットは低め。
リュートの取り扱いはつい難しく考えがちだが、ガット弦、ダブルフレット、低いテンションはそれを簡単にする。
リュートは柔軟で懐の深い楽器であったからこそ、広い階層の沢山の人に愛されたのである・・・

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